開発途上国の貧困問題を解決したいって?そんなものはあなたのすぐ側にあるのに・・・|Struggling in Chuuk

青年海外協力隊に参加したいという人の動機は多種多様だと思うが、中には個人的にどうしても好ましいと思えないものもある。

その際たるものが「開発途上国の貧困問題を解決したいから青年海外協力隊に参加する」というものだ。

私がそういう人を見たら「あー、この人もメディアに毒されているのだな」としか思えないし、ましてや応援する気にもなれない。

だってアフリカやアジアのスラム街まで行かずとも横浜駅前とか川崎駅前あたりを歩けば貧しさに喘いでいる人なんていくらでも見つかるのだから。

そうした日本に蔓延している貧困に気づいていない、もしくは目を瞑っている人にこそ鈴木大介さんの『最貧困女子』を読んでもらいたい。

女性が貧困問題の渦中にいるのはどこの国も同じ

社会的な構造は先進国も開発途上国もどこも変わらないらしく、貧困の被害を受けるのは大抵の場合は女性だ。これは当然看過できない問題ではあるが、生物学的に男性の方が腕力があるということは事実であるため解決に時間がかかる。（無論、正当化するつもりはありません。）

『最貧困女子』の中では地道な取材によって私たちにとって「不可視」の存在になっている貧困状態の中でも最貧困にある女性たちにスポットを当てている。

それらの女性たちがどうして「不可視化」されているのかというと、彼女達はセックスワーク、特にその中でも無届のものに従事しているからだ。

「持たざる者」が行き着く先も同様だ

鈴木さんが取材してきた女性達は総じて凄まじいバックグラウンドを持つ。私の育った家庭も平均よりはかなり下に思えるくらいは酷い環境だったはずだが、それすらもどうってことないと思える程だ。

作中で語られている女性の1人は、零細の運送業を営む父と、イベントコンパニオンをしていた母の間に産まれたが、虐待をされて育った。そして父親の会社の倒産と共に雲行きが変わった。

なんとか住み込みでクリーニング工場の職を得たものの、その頃に出会った男との間に2人の子どもができたが、その夫からDVによって短い結婚生活は終了。クリーニング工場は結婚を期に辞めていたらしく、職探しをしたがうまくいかず、結局出会い系サイトで売春をするようになった。

ところが、それもまた順調にはいかず、いわば買い叩かれているような状態。

それほどの状況に陥っていれば生活保護なり何なり申請できるはずなのだが、いわゆる堅い文章が苦手なため銀行で振り込み手続きをすることすら困難なのだそうな。

こういった人が各種の社会福祉制度に取りこぼされていることは言うまでもないだろう。

だが一体どうすればいいのか？当の本人に最低限の社会常識がないというのに。

こうした女性がズルズルとセックスワーク（しかも非正規）にはまっていくというのだ。（というより抜け出せないという言い方が正しい。）

その転落の過程はアフリカでもアジアでも日本でも大差ないだろう。

解決策もやはり同様だと思う・・・・が

『最貧困女子』では鈴木さんの解決策が提示されている。

そのうちの1つが、家出をしてきた少女が使えるようなシェルターを増やすことだ。（家出少女の話は上述の女性のエピソードの他の話。）というのも、既存の児童福祉の基本が、補導→親権者に渡すという流れから離れられず、いくら親が残虐な人間だろうが離れられないのだ。

その他にも筆者は建設的な提言をしているのだが、その中で改めて読んでみると暗い気持ちにさせられるものがあったので触れておく。

それは「セックスワークの当事者・支援者たちの恋活のシステム化」というものだ。

アイディアそれ自体は悪くないかもしれないが、似たような話をタイやらベトナムやらでの文脈で聞いたことがあるような・・・。

詰まる所、そう遠くない未来に、日本で貧困に喘いでいる女性がアジアの男性に嫁いで、嫁ぎ先で虐げられるなんてことが起こりはしないだろうか、と。

・・・なんだか考えをまとめることなく書き散らしてしまったが、肝心の『最貧困女子』自体は非常に読みやすい筆致で書かれているので敬遠せずに読んでもらいたいと思う。

そして読んでいくうちに気付いてほしい。

日本にも開発途上国に匹敵するほどの問題が山積みであることを。